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「うんまーい!!」 サーレーは学園の中の台所の中で料理を食べさせてもらっていた。かわいい女の子に出会えるは、うまい料理が食えるは、今日は超が付くほどラッキーデーだ。 ここが自分の世界と違う別世界だという絶望的事実を知ったこと以外は。 そこまで行くとサーレーの思考が一気に暗くなる。これでは家に帰ることが絶望的になってしまった。 (・・・・母ちゃん。大丈夫かな・・・・。) 何とかは絶対にするが少々悪いニュース過ぎた。と言うか今までそのことに気が付かなかったのがおかしいと思うのだが・・・・。 すると、暗い表情になったサーレーをみて心配になったシエスタがサーレーの顔を覗き込んだ。 「?」 「どうしました?もしかして・・・・おいしくなかったですか?」 その言葉を聴いてサーレーがはっとした顔でシエスタのほうを振り向いた。 そして急いで、その言葉に反論する。 「んなことねえよ!!うん!まじで!!」 サーレーは堅気の人専用の明るい笑顔を見せるとシエスタはそれを聞いて安心したのかニッコリと太陽な笑顔で返してくれた。 「・・・・・・・俺、この場所に永住しようかな・・・・?」 そんな訳行かないのはお前が一番知っているだろう!!サーレー!! シエスタと二人で色々と会話をし、色々とこの国の状況を聞きだしていると台所のドアがいきなり開いた。そのドアの中には四十絡みの髭面のコックの服装をした男がいた。 おそらくここのコック長だろう。サーレーは恰幅の良さといかにもベテランという雰囲気がそういう結論にたどり着いた。その男がサーレーを見ると口を開いた。 「あんたが貴族を相手に大暴れしたって言う野郎かい?」 どうやら、顔が笑顔だが目は笑っていないところを見るとなんだか俺を快く思っていなさそうだ・・・・。と、サーレーは結論づけた。 一応、相手の出方を見ようと多少、斜に構えながら本当のことを言った。 「そうだけど?何か?」 これで相手の真意が分かるだろう。サーレーはこの男を警戒していた。 もしかして、俺のボコッた貴族のガキの中にこいつの息子か娘でもいたのか!? そうなったら、ニコニコしながら杖を取り出して俺を仲間と取り囲んでボコボコに!! サーレーがあらぬ想像(本日すでに二回目。)をして顔を真っ青にしているさなか、目の前のコック長。 マルトーは感動で涙チョチョ切れだった。四十絡みのおっさんがみっともないことこの上ないがこの男はこれを毎回、自分に他人に良いことが起こるたびに泣く男。 とんでもないくらいの感動屋なのだ。年をとると涙もろくなるというがこの場合はチョット異常だ。異常といえばサーレーの勘違いも異常な妄想の域に行っているが・・・・。 しかもサーレー(と書いてヘタレよ呼ぶ)はこの涙をみて・・・・・。 (このおっさん!子供の復讐ができるからって涙流してやがる!! 殺す気だ!!どんな殺し屋でもこんな明確な意志はでねえ!!) もう呆れて感想を言うこともはばかれる・・・・。 「あの・・・・。サーレーさん?マルトーさん?」 シエスタもこの二人の間の空気がこの数秒間で微妙に変わったことを感じ取っていた。 それと同時に妙な嫌な予感も・・・・・。 ソウコウしているあいだにマルトーの感動ゲージがMAX!!! やばいぞ!!逃げろ!!サーレー!! 「わ、」 「わ!?(声に出して読むときは普段より一オクターブ高く言おう!)」 「われらが剣よぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 サーレーに向かって一直線にマルトーが向かってきた!!もちろん憎むべき貴族をぶちのめした自分たちの英雄に対して凱旋と感謝の意味で!! その巨体のダイブと強靭な腕による握激は常人に対しての死刑宣告でも会った!! 「うそだろ・・・・。くるな・・・・。くるなよ・・・。どこから来るんだ?いったい!!」 そしてサーレーは数日後自分のボスの数回目の断末魔に使われえる言葉を先取りして使ってしまうことになった!! おれの傍に近寄るなー!! ぼきゃぼきゃぼきゃ!! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! サーレーがマルトーに抱き潰されてから数時間後 トリステイン魔法学院 食堂 「まったく・・・。あの蜘蛛頭どこ行ったのかしら・・・・?」 ルイズはしばらくしても帰ってこないサーレーを心配になって、あちこち探したのだかまったく見つからずにもう登校時間になってしまった為、仕方なく登校してきた。 サーレーが心配すぎて午前の授業もまったく身が入らなかった。 (まさか、逃げてないわよね?大丈夫よ!!たぶん・・・・。) そこまでルイズは考えるとなんだか悲しくなってきた。たぶん、なんて無いのだ。彼は家族のために故郷に帰りたかったのだ。ここから逃げるのは当たり前だ・・・・。自分の我が侭に付き合う義理は一切無い。 「なによ・・・・。裏切り者・・・・。」 ルイズは寂しい顔をしながら静かにつぶやいた・・・。彼は自分を裏切ることは無いことは分かっている。なにせ、彼とルイズは何一つ約束もしていない。あるのはただ一つ、自分から押し付けられた“契約”・・・・。 そして彼女は自分が改めて何も無い“零”なのだと気が付いた・・・・。“気が付いて”しまった・・・・。 「ああ、せめて素直になって友達くらい作ればよかった・・・・。」 ルイズは自分を肯定してくれる人を無意識に欲っした。そのまま彼女は泣きながらテーブルに突っ伏してしまった。 そんなルイズを影から心配する希少な人間が数名というところか。存在していた。 「彼女・・・。大丈夫かな?」 その一人、ギーシュ グラモンとその彼女、モンモランシーが泣き突っ伏しているのを遠くから心配そうに見ていた。 この二人は通常ならば敵対するか他の生徒と一緒におちょくるかしているのだが、この世界ではちょっと違っていた。 彼らは、確かに一時期彼女を馬鹿にしていたがとある理由からを影から助けている。 彼女に魔法を教えたり、クラスで孤立しないようにしたりといろいろ手を尽くしたのだが・・・。成功したとは言い難かった。むしろ彼女のプライドの高さに触れ、大失敗を喫した事の方が多かった。 でも彼らはあきらめなかった。表には出なかったが何とかしようと陰ながら努力してきたつもりだった。 やはり、学校一の女好きとして女の子の涙を見過ごすわけには行かなかったのだろう。 モンモランシーもそんなギーシュの愚直さとも言うべき優しさに、浮気ばかりする駄目男だが、惚れたと言ってもよかった。 ギーシュは見かねた様子で席を立つと静かに隣の最愛の恋人の耳元でつぶやいた。 「やっぱり、ちょっと探してくるよ・・・。」 「わかった。昼食はメイドの誰かに言って何とか残してもらうから。授業には間に合うようにネ。」 ありがとう、とギーシュは礼を言うと静かに無駄に豪華な装飾がしてある広い食堂を走り出した・・・。 ギーシュが外に出るとそこで二人、見慣れた人物を見かけた。燃えるような赤髪に背の高いグラマラスなからだの持ち主。そしてその横にはまったくといって良いほどの正反対の青い髪と小柄な眼鏡の少女が食堂の門の前に立っていた。 「あれ?キュルケにタバサじゃないか!食事に行かないのかい?」 よく見ると二人とも制服が少し汚い。・・・・・まさかと思うが。 「まさか・・・・。二人とも捜してたのかい?ルイズの使い魔。」 ニヤニヤと笑いながらギーシュが二人をみる。日ごろから馬鹿にしておいてこんなときに助けるなんて新手のツンデレ使いもいいとこだ。 「ニヤニヤ・・・・。」 「な、なによ!!その顔!!なんか悪い!?」 キュルケが明らかに焦った顔をして、さり気に肯定する。 「イヤー。何だかんだいってもルイズのことが可愛いんだなーって。」 なによ!と起こるのかなぁとギーシュは思っていたのだがそんなことなく「はあ・・・・。」と一つ大きなため息をつくと地面を見ながら、一言呟いた。 「あの使い魔。台所でなんか料理長の手伝いしてたわよ。」 「・・・・・へ?」 灯台下暗し 寝耳に水とキョトーンとした顔でキュルケを見るしかないギーシュだった。 そのとき・・・・・。 「なにすんのよ!!この馬「なめてんじゃねーぞ!!このションベンチビリの餓鬼!!」」 そのルイズと誰かの怒鳴り声の次にバンと物が打ち付けられる音が響いた。 二人は顔を見合わせると慌てて食堂の中に走って入っていった。タバサも二人の後に続くように食堂の扉に吸い込まれていった。 一方サーレーの方は・・・。 「いやーまったく悪かったなあ!!ガハハハハハハ!!」 マルトーが笑いながら、サーレーの体をバンバン叩いた。 そのたんびにサーレーの体がガクンガクンと前後上下に激しく動いた。 「うん。わかった・・・・。わかったから・・・。叩くの止めてくれ・・・。」 サーレーと会話したマルトーはサーレーがマルトーを貴族に親族がいて復讐に来たのかと思ったこと。 自分が召喚された経緯を話した。 そして、サーレーはマルトーが筋金入りの貴族嫌いだと分かった。 最初のほうなんか話したときにあからさまに嫌そうな顔をされたからだ。あと、最後のほうはマルトーとシエスタになら話しても大丈夫だと思ったからだ。 少なくとも、馬鹿にされることもないし、狂っていると思われることも無い。 実際、二人は別世界のくだりを不思議そうな顔でサーレーの話を聞いていたがサーレーの能力と持っていた携帯電話で何とか信じ込ませた。そして、家族のことも話した。案外、あっさり信じてもらったのでサーレーはあまりのあっさりさに驚いていた。 それどころか、マルトーは本気で憤慨し地団太を踏んで床を踏み抜きかけた。 「貴族の身勝手で一人の家族を不幸にしていいのか!!」と。 この二人のお人好しさにたまらずサーレーは二人に叫んだ。 いままでギャングという誰も信じてはいけない環境がこの二人のお人好しについて行けなかったのだ。 「お前ら!!俺の話がうそかもしれないのに!!よくそんな風に信じられるな!!」 サーレーの叫び声に二人がキョトーンとしてサーレーを見た。 「嘘・・・・なんですか?」 その顔のままシエスタが静かにサーレーに質問する。 「いや・・・・。二人ともあっさり信じてもらえるもんだから・・・つい・・・。」 その言葉にシエスタが寂しそうに笑いながら、安心したようにサーレーの言葉の中に隠されている質問の答えを話す。 「ここでは貴族の力が強くて私たちが弱いから・・・・力をあわせて生きていくしかないんです・・・。 私たちが、仲間同士で疑ったら終わりなんです・・・。」 「・・・・そうか・・・・。」 ああ、ここも一緒なんだ。と、サーレーは思った。力があるものは弱い人間を従えられるし、弱い人間は利用されるばかりなのかと・・・・。 「あ!私そろそろ行きますね!もうすぐ、朝食の時間ですから。」 「ん!そっか。じゃあな。」 そういうとシエスタは厨房から食堂に走っていった。 「さーて、俺も仕込みに戻るかな!」 マルトーも行ってしまおうとするとサーレーもマルトーについてくる。 「・・・?どうした?」 「朝飯の礼だ。なんか手伝うよ。」 「それじゃあ、皿洗いでも頼むか。」 マルトーがニッコリ洗いながら、サーレーの肩を叩いた。 そして 時間は現在の少し前に戻る ルイズは突っ伏して泣いていたが泣き顔をみんなの前で見せていることに気が付き、慌てて泣くのを止めた。 なにやらギーシュが急いで外に出たのが見えたが気にすることは何も無かった。 しばらく、だまって食事が運ばれてるのを見ているといきなり丁度、ルイズの座っている所から反対側の三年の列で怒鳴り声が聞こえた。 「おい!平民!!俺の、俺のマントにケーキひっくり返しやがって!!覚悟できてんだろうな!!」 柄の悪い、本当に貴族かと思うほどの濁声とジャラジャラとなにやらよく分からない金属のアクセサリーを付けるファッションセンス。 センスの悪さと服装の空気の読めて無さはギーシュ並み・・・・。と、明らかに不良だ。しかも、ここの学園の中でもあくどい事で知られる血管針団の一人、ペイジではないか。 その濁声の先にはか弱そうなメイドの少女が必死で頭を下げている。 「申し訳ありません!!貴族様!!どうかお許しを・・・。」 「誤ればすむ問題じゃねえんだよ!!覚悟しろよ!! 」 ヒッ、とメイドが小さく叫んだ。誰も近くの人間はメイドを助けに行こうとしない。というか助ける気も無いのだろう。たかが平民ごときに四人全員がトライアングル級の血管針団と喧嘩をするやつはいない。結局、こいつらは自分のことしか考えていないのだ。 そう考えると、ルイズは考えなしに立ち上がっていた。自分でも理由はわかっていなかった。 「ちょっと!止めなさいよ!!」 ルイズは二人の間に割って入る。ペイジは「アアン?」とルイズのほうを見た。 「これはこれは、ヴァリエールの不肖の娘、ゼロのルイズ様では御座いませんか~。今時人助けですか~。涙ぐましいことですね~。」 「いいからそのメイドを放しなさい!!あなた貴族でしょう!!誇りは無いの!?」 すると後ろのちょうどルイズの肩から声が聞こえてきた。 「それが無いんだなー。誇りなんかでご飯は食べれないよ~。」 ルイズが後ろを見るとそこには血管針団のリーダー:ボーンナム ド デスブロウド が自身の杖である折りたたみの金属の棍棒をルイズのほほにぐりぐりと突きつけながらニッコリと笑って答える。 彼の後ろには同じく団員のプラントとジョーンズも自身の杖である長いナイフとスティレット形の銀の杖を構えて立っている。 「いやーさ。僕らの家って誇りとか大事にしすぎてつぶれかけた家系だから、誇りとかドーデモいいんだよね。むしろ、だいっ嫌いなんだよ・・・。」 だからさ・・・・と、ボーンナムがルイズの耳元でぞっとするような冷たい声で囁く。 「能力も無いくせに誇りとか喚く君も嫌い。」 そしてボーンナムは自分に部下のプラントに命じた。 「プラント~。その女の子、僕の部屋に押し込んどいて・・・・。体で分かってもらおう・・。」 端正な顔から邪悪な笑顔を出しながらボーンナムが冷徹に命じた。 「はい。ボーンナムさん。」 プラントが無表情で命令を実行する。 「いや・・・・。止めて・・・・。お願いですから・・・・。」 そのメイド、シエスタが泣きながら連れて行かれていくのをみて、ルイズがボーンナムの腕をすり抜け、そのままプラントにタックルをかました。 ぬ、っといってプラントが少しよろめいた。 「なにするのよ!!ば「なめてんじゃねえぞ!このションベンチビリの餓鬼!!」」 プラントに気を取られて気が付かなかったが近くにはペイジがおり、即座にルイズの胸倉をつかみ地面に引き倒した。 ルイズは自分の懐の杖を掴もうとするがその手をペイジに胸倉と踏まれてしまった。 「げほっ!!」 「あぶねえあぶねえ。お前の爆発はラインか、もしかしたらトライアングルに届く火力だからな。」 ボーンナムが倒れたルイズを見下しながら嘲笑う。 「おやおや・・・・。もしかして、君も俺らの“説教”に混ざりたかったのかな? まさかゼロのルイズがエロのルイズとは!!」 そのまま、ジョーンズがルイズを立たせるとそのままルイズも一緒に連れて行こうとする。 「な、なによ!離しなさいよ!!この鬼畜!!」 「鬼畜で結構。きみ、顔は中々上玉だから楽しめそうだよ・・・・。」 「い、いや・・・・。」 ルイズはここでなぜ彼女を助けようと思ったのかわかった。自分を唯一否定しないひと、自分のすぐ上の姉が自分が平民を見捨てたなんて知ったら・・・・今度こそ私は一人ぼっちだ。そんなの嫌だと思ったからだ。結局、自分本位の考え方の末路だ。 改めてルイズは自分が自分のことしか考えてないのだと痛感してしまった・・・。 「さあ、二人とも行こうか・・・・。」 ボーンナムがニッコリと冷徹な笑みを二人に向けると同時にペイジがいやらしい笑みを二人に向けた。 それと同時に・・・・。 グワッーーーーーーーーーーーーーシャーーーーーーーーン!! なんといきなりペイジの体が中を浮いてテーブルに突っ込んだのだ。 「なんだーテメーら、ロリコンかよぉ!!よくこんなチンクシャに欲情できんなぁ!!」 こいつらチンピラと変わらない濁声だがどこかで聞いたことのある声。 そして、印象に残る甲殻類か蜘蛛の一種のような髪型。季節外れのノースリーブの服装。 そして何故か下半身の動きやすそうなズボンの上にエプロンをしていた。 「あんたどうして・・・・。」 ルイズはその男、サーレーを見上げる。何故、帰ってきたのかと問おうとする前にサーレーが口を開く。 「他人を助けようとするあんたの甘さが一つだけあんたに帰ってきたのかもな・・・・。」 「なんだ!!てめえ!!」 ジョーンズがサーレーに殴りかかるがそのパンチを右手で簡単に止められ・・・・。 「軽い軽い!魔法に頼りすぎると体鈍るよぉ~。坊主。」 最初のところまでは小ばかにしたように笑っていたが最後の坊主の部分はギャング特有の殺気を込めた迫力のある濁声を張り上げた。 ジョーンズの顔に左ストレートがめり込む。 「ブッ!!」 ジョーンズがペイジと折り重なるようにテーブルの上に吹っ飛ばされた。 貴族の一人の少女が近くのテーブルを飛ぶように滑ってくる二人をみて、ヒッ!と悲鳴を上げた。 その近くの男がその姿を見てサーレーに講義する。 ちなみに彼らはサーレーが昨日、二年生全員を相手に大暴れしたことなど知らなかったのでただの厨房の従業員かと思っていた。 「おい!平民!!こっちに被害を出す気か!!喧嘩なら外でやれ!!」 「そうだ!!」 「そのままボーンナムたちにやられちまえ!!」 周りからブーイングの嵐が吹き荒れるがそんなこと物ともせずにサーレーはギロリと周囲の野次馬を睨んだ。 一瞬、食堂内が水を打ったように静かになった。 「おまえらの中で、こいつらを助けようと思って行動したやつがいるのか?お笑いだぜ!! 平民だのゼロだの馬鹿にして、自分たちは安全なところで高みの見物しやがって!!自分のルールも誇りも自分で勝ち取ったものも無いくせに!!偉そうにしやがって!!お前らがより、ルイズのほうが数千倍価値のある人間だぜ!!まったく!!」 サーレーは一言、野次馬たちに激を飛ばすとルイズとシエスタを不良たちから引き離した。 「まったく、あいつら。やっぱり甘ちゃんだな。あんなのが将来軍人とか国の高官になるとかもうこの国終わったな・・・・。」 ギャングの自分には関係の無い話ではあるが、とサーレーは一人ごちた。 「・・・・・きみ、何してくれちゃってんの?」 ボーンナムが殺気満々の目でサーレーを睨んでいた。 「・・・自己満足。」 サーレーは軽く言うとニヤッと笑う。 ボーンナムもフッと笑うと杖をサーレーに向けた。 「そうだ君。決闘しよう。」 「はあ?」 サーレーは拍子抜けしたような表情で叫ぶがボーンナムはいたって本気だった。 「君が勝てば、この二人は放す。二度と近づかない。ただ、僕らが勝てばこの二人は僕らの“教育”を受けてもらう。いいね?」 「いや、全員だ。」 へっ?というボーンナムに対し、今度はサーレーが本気だった。 「ここにいる全員が平民とルイズを馬鹿にしねえ。それが条件だ。」 「・・・僕の一存ではどうにもならないけど、まあ良いや。」 「「「「「「「「いいのかよ!!」」」」」」」」 周りからまたブーイングの嵐になりそうだったが、サーレーとボーンナムのにらみで黙らせる。 「じゃあ、僕らは先に広場で待ってるよ。」 プラントとジョーンズが今だ気絶するペイジを抱えてボーンナムについていった。 それを見送ったサーレーにルイズが声を掛ける。 「あの・・・・ありが「何でなんですか!サーレーさん!!」」 いきなり横のメイドに邪魔をされた。 ちょっとルイズがむすっとした様子でサーレーとシエスタを睨んだ。 「殺されちゃいます!!何であんなこと・・・・。」「そうよ!!あの四人は学校でもトップクラスのメイジなのよ!!今すぐ誤って・・・・。」 ルイズもそういったが、その時にサーレーが二年相手に互角以上に渡り合った実力者であると気が付いた。 その二人のあせった様子にサーレーはヘラヘラ笑うと二人の肩をポンポンと叩くと、こう言った。 「ダイジョブだ。俺はあんな雑魚に負けねえ。二人とも俺の力、判ってんだろう? あ、あと悪かったな。いきなり居なくなって。」 サーレーがルイズに向かって詫びた。 「へっ?・・・・分かっているなら・・・良いわよ・・・。」 ありがとな、とサーレーは礼を言うと食堂を出て、広場の場所に進んでいった。 その後姿は今までのへたれの雰囲気は微塵もなく、とても頼もしく見えた。 さあ、真似しましょう。うまく、うまく真似しましょう。死と恐怖だけ真似しましょう。 いつもの如く真似しましょう。誰か誰もが泣き叫ぶような悪夢に真似しましょう。 ここには希望は一人もいません。遠い東国の少年も、金色の心を持つものも、運命のトリックスターはどこにもいません。 悪に対する取立人はこの国にはやってこられない。この世界にはやってこられない。ワクワクワクワク・・・・・・。 あの男の代用品がどこまで生きていられるか楽しみでしょうがない。まずはゆっくり調理しましょう。 邪魔者を消しましょう。彼女と邪悪な心の鉄球使いを使って今日は一組のイレギュラーを消しましょう。 ついでにキザな土使いとその彼女も消しましょう。邪魔で、邪魔で仕方ない・・・・。 ただのギャングには止められない。ただの少女には止められない。ただの戦士や百戦錬磨の武人なんかまず無理だ。ワクワクワクワク。 楽しくて楽しくて・・・・・。 楽しさだけで絶頂しそうだ!! さあさあ、皆さんお立会い!グランギニョル座の開演だ!! 同日 トリステインにて変死した政府高官の貴族の持っていた一通の手紙より・・・・・
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春の暖かく爽やか天気 小鳥がさえずり、横になればすぐに寝ることが出来そうなそんな場所 トリスティン魔法学院の郊外でそれは行われていた。 桃色の髪の少女は魔法陣の中央に立ち儀式に必要な呪文を紡ぎだした。 「どっかの宇宙の果てにいる私だけのシモベよ 気高く、神聖な使い魔よ! 我の心から求め、訴えるわ……我が導きに、答えなさい! ……つーかなんでもいいから出てきなさい!!」 ズドギャァァーz____ン!! いつもとは違う爆発にルイズは自信を持っていた。 (こいつは成功したわ!! きっとあの煙が晴れたら素敵な使い魔が現れるのよ!!) 彼女の周囲には蛙や梟、大きなものではサラマンダーなどの幻獣がいた。 うらやましいと思ったクラスの連中は次々に成功していくなか自分だけが呼び出せてないのだ。 しかもこの儀式、失敗すると留年確実なもので当然全員必死である。 そのなかで少女――ルイズはすでに何回も失敗していた。 ちなみにルイズを除けば全員一発で成功している。 まさに一人背水の陣である。 「もう退学でいいんじゃね?」 「まだかよ……もう昼飯じゃねぇかよ!! クソッ!クソッ!!」 「ゼロのルイズの学園生活――完!!」 「…………(読書中)」 ――と、まあ周囲も彼女を激励し見守っている。 そんな応援のなかついに成功の予兆がみて取られた。 煙のなかに影が見て取れたのだ!! さわやかな風が煙りを払いそこに現れたのは…… グルァァアァアァ シュー、シュー 二体のゴーレムらしき存在だった!! 一つは変な兜を被っており体が紫と白のチェック柄をしていて獰猛そうな顔をしている。 もう一体は頭部や背中から煙を出して顔や体が縦縞模様のものである。 「ルイズがサモン・サーヴァントを成功させただとぉ!? しかも2体も!!」 「な、なんだってー!!」 「OH MY GOD!!」 「クレイジー……いかれてやがる……!!」 周囲が驚愕し騒ぎ始めるがルイズ本人も混乱していた。 (呼び出したのはいいけど2体いた場合どうすればいいのかしら?」 そう思いながら担当教員であるコルベールをちらっと見る。 コルベールはルイズの視線に気づき 「……ゴーレムが二体か、まぁ契約は両方しとくかい?」 あっさりとルイズに返した。 ルイズはま、両方できれば儲け物だしこれからはゼロと呼ばれなくなる日常が待っている ためあっさり頷いた。 しかしこのコルベール、油断はまったくしていない。 ルイズが視線を外した瞬間から杖をいつでも構えられるようにしている。 ルイズがゆっくりと二体に近づく。 紫のはよだれを垂らし周囲を見渡し近くによってみるとなにやら唸って威嚇してくる。 (こっちは凶暴そうね。知性もないみたい) 縦縞は何もせず突っ立っている。相変わらず煙は吹いているが。 (こっちは従順そう。こっちから契約しようかしら) ルイズは頭の中で考えをまとめ縦縞ゴーレムに近づき口らしき部分にキスをした。 すると縦縞ゴーレムの左手が輝き契約が完了したことを示した。 契約が完了したことに満足したルイズはもう一体とも契約しようと紫ゴーレムにゆっくりと 近づいた。 グアラァァア!! やっぱやめようかしら。 と、ルイズは思ったがあれが暴れて自分の責任に回ってくるのが 見えたのでダメもとでやってみようと判断した。 いざとなればミスタ・コルベールがいるし。 ジュルジュルらぁああ 紫ゴーレムはブンブンと首を振りながらウロウロ周囲を歩き出した。 ぶっちゃけばっちい。 涎を垂らしながら首を振る→涎が服や髪にも跳ねる→ワタシ、ヨゴレチャッタ の流れがルイズには見えた。 どうすればいいか? 悩んだが一瞬で答えが出た。 もう一体に抑えて貰っているうちに済ませばいいのだ。 どうせ一体いるし失敗してもモーマンタイだ。 「ねえ、アンタ。一緒に出てきたアイツ抑えといて、そしたら私がもう一回契約するから。OK?」 ルイズが命令すると縦縞ゴーレムは紫ゴーレムに向かって移動を始めた。 ウガァ? 紫ゴーレムも自分に近づいてくる存在に気づき警戒を深め…… るようなことはしなかった!! いきなり近づきそのまま拳で殴りかかったのだ!! グアラァァアアア!! いきなりの攻撃に縦縞ゴーレムも対応できずに吹っ飛ばされた。 地面に倒され追い討ちで蹴りまで喰らっている。 グガァァ! じゅルラァアァ!! バキ! ドガ! ドゴォ! 蹴りの嵐が縦縞ゴーレムに襲い掛かる。 そしてそのダメージは…… 「ぎゃっ!! ガッ!!」 なんとルイズにも伝わってきた。 いきなりルイズが倒れ血を吐いたのだ。 生徒はその姿に驚愕する!! その姿を見たコルベールは近くの生徒に水のメイジを呼ぶよう指示し 自身は素早く呪文を唱えた。 ズキュン!! 炎が紫ゴーレムの口を塞ぎ呼吸を出来なくさせる。 その炎に驚いたのか必死に炎を取ろうともがく。 しかし炎に形は無い。 取り外そうとするがただ空振るだけだ。 苛立って暴れても炎は取れない。暴れるだけ自分が疲弊していくだけなのだ。 「……やれやれ、使い魔との繋がりがミス・ヴァリエールにこうも強くでるとはね 見る限りダメージは主従ともに受けるのか」 コルベールは吐血しているルイズと腹部に蹴られた跡がある ゴーレム見て今起きた現象を理解した。 言いながらコルベールは次の呪文を唱え巨大な火の玉を紫ゴーレムにぶつけた。 グガッァアア!! 炎に巻かれたゴーレムは敵をコルベールに切り替えよろめく足取りでコルベールに 近づこうとしたが背後から羽交い絞めにされて怒り狂った。 後ろを振り返るとさっきまで倒れていたもう一体が自分を抑えているのだ。 ガァアァ!! 振りほどこうとするが炎のダメージが大きく満足に動けない。 蹴りで抵抗するが呼吸出来てないため力が入らない。 しばらく暴れていたが正面に気配を感じ向き直るとルイズがそこに立っていた。 「はぁ、はぁ、やってくれるじゃない……この駄犬がァ!! どっちか従えれば良いと 思ってたけど取りやめよ。オマエも契約してやる!」 普通なら二重契約など出来ようもないのだが今のルイズは出来ると何故か確信していた。 ただコルベールに焼かせるのも気に入らない。 自分の下僕にしなければ気がすまない。 コルベールに口の炎を解除させるよう訴える。 さすがにコルベールは首を振るがルイズはさらに強い意思で訴える。 今の自分なら出来ると。失敗したらゴーレム即効で焼き殺すことでいいと条件を付けルイズは さらに近づき文字通り目と鼻の先に近づいた。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 「せっかく呼び出したんだもの私がアンタを躾けなくちゃいけないわね。 そう、主人に乱暴を働く駄犬を躾けるのはご主人様の義務だもの」 言い終わった瞬間に炎が消えた。 ゴーレムは唾を吐いて抵抗するがルイズはそれでも止まらず契約のキスをした。 ガ、ガッァアアッァァアァ!! 先ほどと同じく左手に使い魔の刻印が刻まれた。 それを確認するとルイズは満足そうな笑みを――冷たい笑顔を浮かべ ゴーレムに蹴りを喰らわせた そのあとコルベールの方を向き 「契約完了しました」 と先ほどと打って変わって爽やかな笑顔で報告した。 こうしてルイズは学院史上初使い魔を二体従えることに成功したのだ。 自分の呼び出した使い魔の正体を知らずに…… To Be Continued...
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人間がこの世に存在するのは金持ちになるためではなく、幸福になるためである byスタンダール ドアを開けるとそこにいたのはワルドだった。 「おはよう。使い魔くん」 「おはようございます」 「おはようございます」 五月蠅いぞギーシュ。会話に入ってくるな。 しかし朝からどうしたというんだ?朝食にはまだ早いだろう? 「ええと、ギーシュくん。少しの間ご退出願えるかな」 「は、はい」 ギーシュは戸惑いながらも出て行く。 「きみは伝説の使い魔『ガンダールヴ』なのだろう?」 そしてギーシュが完全にいなくなったことを確認すると、ワルドは突然そう切り出した。 「は?」 心臓がバクバクする。誤魔化せれた、誤魔化せれたよな!?なにも顔には出してないよな!? うまく惚けた振りできたよな!? なんで知ってんだよ!?ありえねー!ふざけんなよ!? 「……その、あれだ。フーケの一件で、僕はきみに興味を抱いたのだ。そしたら伝説の使い魔『ガンダールヴ』だそうじゃないか」 ワルドは何か誤魔化す様な感じで首を傾げながら言う。反応からしてどうやらこちらの変化には気づいてないようだ。 よかった、いつも無表情でいて。……よし、落ち着いた。もう大丈夫。 私が『ガンダールヴ』だということを知っているのはオスマン、ならびにオスマンと一緒に調べた(らしい)コルベールだけだのはずだ。 知っているはずがない。それに『ガンダールヴ』は伝説なのだ。オスマンはそれを勿論知っている。コルベールもだ。 伝説が復活したとなれば色々騒ぎになるはずだ。その騒ぎを恐れてオスマンとコルベールは秘匿しているはずなのだから喋るわけがない。 さすがに色仕掛けだとかそんなもんで喋るものでもないだろう。 ルーンを見られたという可能性もあるがいつも手袋をしてるし、洗濯等の水周りぐらいでしか外さない。 それにルイズにすらルーンを見せてないしな。 おかしい、そして怪しい。 「『ガンダールヴ』ですか?それは一体?」 誤魔化すことにしよう。そしてワルドの様子をさぐる。 「いや『ガンダールヴ』だよ。まあいい。僕は歴史と、兵(つわもの)に興味があってね。フーケを尋問したときに、きみに興味を抱き、王立図書館できみのことを 調べたのさ。その結果、『ガンダールヴ』にたどり着いた」 確定だ。こいつは怪しいんじゃない、怪しすぎる。敵である可能性もでかい。 何でその王立図書館で俺のことが調べられるんだ?どうしてそこで『ガンダールヴ』が出てくる?敵かもしれないという可能性は暴論じゃないはずだ。 敵じゃなくても何か隠してるのは間違いない。 「あの『土くれ』を捕まえた腕がどのぐらいのものだか、知りたいんだ。ちょっと手合わせ願いたい」 おいまさか…… 「……それのことですか」 そう言ってワルドの腰に刺さっている杖を指し示す。 「これのことさ」 ワルドは薄く笑いながら杖を引き抜く。もしかしたら試合中の事故とか言って私のことを殺すつもりなのかもしれない。 「断ります」 「へ?」 ワルドは目を丸く見開き呆けた表情をする。断れるとは思って無かったのだろう。滑稽だな。 しかしすぐに正気に戻る。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。お互いの力量が測れるいい機会だと思わないかい?お互いの実力がわかれば戦闘においても作戦が立てやすくなる」 しつこいな。そんなにしてまで私を殺したいのか? 「心配しなくてもあなたの実力は大体予測がついてます」 「へ?」 「おそらく『風』のスクウェアメイジで接近戦でも強いであろうということ。それと戦いなれしているであろうということ。それだけわかれば十分です」 体つきがいいからな、鍛えているのだろう。だから接近戦も出来るはずだ。もしかしたらそこに魔法を織り交ぜてくるのかもしれない。 『風』だと判断したのはギーシュの使い魔への攻撃とギーシュに迫る矢を防いだ時に『風』属性の魔法を使っていたからだ。 とっさに何かする場合、自分が得意とする属性が出るものだと思っている。それに魔法が使える奴は自分の得意な属性を贔屓したがるようだしな。 なんにせよ、ワルドの呆けた顔は滑稽だった。
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タルブ村の中央に位置する、丸い広場。 その石段でできた広場に設置された噴水。 流水が涼しげに波紋を作っている。 その光景を最もよく見えるように、大きくテラスを張りだたせた建物。 その建物は、入り口が南側。壁は、白い漆喰。 「ここみたいね」 キュルケが、午後の太陽の光を背中に浴びながらいった。 彼女たちの目的地は、ここ、『魅惑の妖精亭・本店』である。 タルブ村は平凡な田舎村でありながら、実は、特異な郷土料理で有名な村であった。 その郷土料理の名声は、遠くゲルマニアの地にまで聞き及ぶ。 物好きな豪商や貴族たちは、この魅惑のリストランテまで足を運んで、己の舌に鼓 を打つのだった。 このリストランテは、貴族や豪商にも利用できるように清潔に整備されている。 店内には、席が百席ほど用意されているだろうか? ルイズはそう見て取った。 「ついたわよ、ダーリン」 キュルケのその言葉にも、ブチャラティは気づかない。 なにか書かれている紙を手に持ち、それを一心に見つめている。 ブチャラティが、タバサの竜に乗っている間中、ずっとだんまりを決めていたのも このためだ。 彼は、道中、ずっとこの店のメニューを見ていたのだ。 「う~ん……やはりマルガリータは当然頼むとして…… ボルチーニ茸をのせてもらうか……」 「あの……ブチャラティさん……?」 さすがのギーシュも、ブチャラティの異様な態度に気がついたようだ。 「イカスミが無いのが残念だが……」 ルイズは、大きく息を吸い込んだ。 一瞬の間のあと、広場を少女の大声が支配した。 「ブチャラティ!!!」 「なんだ? ルイズ、そんなに大声を出して?」 「着いたわよ、『ピッツァ』が食べられる店」 「おおっ! そうか!」 ブチャラティはそういい残すと、やっと顔をあげた。 「ずいぶんと、人が並んでいるな」 そういった口は、不満の色を隠せない。 彼の言うとおり、『魅惑の妖精亭』の前にあつらえてある、待合椅子には、三十人 ほどの、いかにも身なりの良い人たちが並んで座っている。 おそらくは、メイジの客なのだろう。 「こんなに混んでるんだったら、相当待ちそうだな」 ギーシュは自分のおなかをさすりながら言った。 今の時刻は、とうにお昼時を過ぎている。 今頃トリステイン学院では、食事も終わり、食後の紅茶が配られている頃だろう。 この時間になっても、貴族たちですら並んでいるという事実は、ブチャラティに希 望を抱かせた。 だが、同時に、ルイズたちも、結構な時間を待ち時間に浪費する、という真実を示 してもいた。 「どのくらい待つだろうかな?」 多少は冷静さを取り戻したブチャラティは、誰ともなしに発言してみた。 彼は、まともな返答が返ってくる事は期待していない。 だが、それにもかかわらず、彼の原始的な欲求は、心の中でやくたいもない不平を 量産していくのであった。 くそっ。 これがもし故郷のネアポリスであったならば。 あの、なじみのポモドーロおばさんの店だったのであれば。 自分の不登校な息子のことで愚痴を言いながらも、俺に優先してピッツァを包んで くれるのに。 だが、ここは異世界。 ブチャラティ以外に、生粋のイタリア人はいない。 その代わりに、彼らに声をかけるものがいた。 「お~い」 ルイズは、その声が店内からかけられたことまではわかったが、正確な位置はわか らない。それほどまでに、この店は混んでいたのだ。 「あそこ」 タバサが人差し指を店内の一点に向ける。 ルイズは見つけた。 タバサが指さす、店の奥に設置された大き目の丸テーブルを。 それをたった三人で占拠していた。 そのうちの一人が、彼女らに声をかけた張本人。 岸辺露伴だ。 「うまい! 最高だ。ネアポリス特有の厚めの生地。それを、外側はかりっと、内 側はややふんわり焼いてある。 しかも、このマルガリータピッツァにのったモッツァレラチーズは、フレッシュ タイプの水牛のものだな。臭みがまったく無い」 ブチャラティが露伴の隣に座り、熱々のそれを口に運ぶ。 とろけたチーズと、トマトが舌の上で絶妙に絡みつく。そこに、ルッコラの葉がア クセントを加える。この店の自慢の一品である。 「ええ、ブチャラティさん。このチーズを作るお牛さんは、おじいちゃんがわざわ ざ東方の地から探してつれてきたそうですよ」 シエスタは、ブチャラティのコップに赤レモンのジュースを注ぎながら答えた。 「すごいな、君のおじいさんは。こんな地で、本場のイタリア料理が食えるとは思 いもしなかったよ。このパッケリのパスタと、トマトソースは実によく合う! なんというか、どこかのバカとプッツンの組み合わせだ。いい意味でな」 露伴はレモンジュースを飲みながら言った。彼が今、食べているパスタはアツアツ のボロネーゼだ。 タルブ村に降り注ぐ、真っ赤な太陽をたくさん浴びて育ったレモンの酸は、露伴の 舌にいまだ残る、モッツァレラチーズの後味と混ざり合わさり、さわやかな快感を 露伴の脳に感じさせた。 「いえ、私のお爺ちゃんは、故郷を探しにいった帰りに見つけたらしく『ついでだ』 といってました。ただ、この赤いお野菜のほうは、わざわざ探したみたいです。 『世界中を探して回った』といってたそうです」 「そうすると、君は曽祖父も、祖父もハルケギニアの人間じゃないのか?」 「はい。ええと、『タケオ』曾おじいちゃんは、お母さんのおじいちゃんですね」 ブチャラティとシエスタ、岸辺露伴が、このように魅惑の妖精店内で舌鼓をうってい たころ。 ルイズたち、トリステイン学院の学生たちはその恩恵を受けられずにいた。 なぜなら、彼女たちは、コルベールの前で、小さくなっていたからだ。 「ミス・タバサ。私は言ったハズです。学生に、長期休暇は与えられないと」 「……」 タバサは上目遣いに、その人物を見やった。 コルベールではなく、彼の奥に座っている露伴を。 「余所見をしないでください!!!」 「……はい」 「特に、あなたは御家の事情とかいうもので、何かと休みがちなのです。いくら成績 がいいとはいえ、あまり感心できません」 ルイズたちは椅子に座って、コルベールの頭越しに、ブチャラティたちの宴を見せ付 けられているところである。 「コルベール先生。タバサも反省していることですし、その位になされては?」 タバサとは反対に、キュルケは、明るい感じでコルベールの顔を直視した。 コルベールの額が日光で輝いている。その反射光は、キュルケの谷間を照らしていた。 「ミス・ツェルプストー。これは、あなたたち学生には共通して言えることですぞ!」 「フフフ、すみません。でも、来てしまったのはしかたがありませんわ」 「むむむ……そういわれては……」 危うく、キュルケの誘惑に陥落しそうなコルベールであったが、彼の脆弱な男心に、 意外な助っ人が表れた。彼の前で恐縮しきっている男子生徒、ギーシュである。 「コルベール先生。まあ、今回はブチャラティさんが『この店に行きたい』といって のことです。あまり長居はしませんってば」 この言葉に、コルベールは教職としての本分を何とか思い出した。 「それならば、なぜあなたたちがついてくるのです? 彼はミス・ヴァリエールの使 い魔であって、君達の使い魔ではありませんぞ? 特にミスタ・グラモン。 君は、私の『基礎地歴学』の単位を落としているではないですか。追試は来週です。 ここに来るほど、君は試験の成績に自信があるのですか?」 「う゛……」 「それにですな。ミスタ・ブチャラティは、使い魔であっても中身は立派な成人男子 です。ミス・ヴァリエール、君がこのタルブ村まで付き添う必要はないではありま せんか」 「いえ……でも、自分の使い魔の管理はちゃんとしないと……」 「はっきり言って、日ごろの生活態度から見るに、ミス・ヴァリエール。あなたこそ がミスタ・ブチャラティに監督される立場ではないですかな?」 「……はい、そうです……」 コルベールの説教癖のせいで、ルイズたちは、日が落ちるまで彼の御言葉を拝聴しな くてはならなかった。 そのおかげで、ルイズたちは一泊だけ、タルブ村の、シエスタの実家に泊まることを 許可された。 コルベールが、学生たちに夜半の、危険な旅をさせることに反対したからである。 だが、ルイズたちは、学院を抜け出した罰として、昼食にありつける事はなかった。 俗に言う、『おあずけ』というやつである。 To Be Continued...
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ルイズが武器屋でヤクザ紛いな事をやらかしていたその頃。 武器屋の外では、ドアに耳をくっつけて中の様子を覗うキュルケとそれを冷めた目で見つめるタバサの姿があった。 ドン! 「ルイズ様・・・・・・・・・・・・・・・」 「あんたは黙って・・・・・・・・・・」 キュルケの耳にはルイズとギーシュの声が聞こえてくるが。 ドアが分厚いせいか具体的な内容は届いて来ない。 しかし、それよりもキュルケには気になる事があった。 (どうやってギーシュを垂らし込んだのかしら?) 惚れっぽい性格で二股三股は当たり前のプレイボーイ、それが学園内でのギーシュ総評。 だが、彼女の知るギーシュのストライクゾーンにはルイズは入っていないはずなのだ。 (鍵は、さっき聞こえたギーシュの「ルイズ様」発言のようね) モヤモヤと考え込んでいるキュルケの脳内では妄想が展開されていく。 ――――――――――――――――――――――――――――――― そこはルイズの部屋であった。 何故かキュルケの脳内では、赤、青、緑等の様々な色を混ぜたかのような光が瞬く怪しげな空間になっているが。 「フヒヒ」 縄で縛られているギーシュが床に転がっていた。全裸で。何故かフヒヒ笑いをしているのが気持ち悪い。全裸だから更に。 傍らに立っているのは部屋の主であるルイズ。服装がこれまた何故か変わっている。 革製の拘束具、俗にボンデージと呼ばれる物を着て、縄で縛られているギーシュ(全裸)を養豚場の豚を見るような目で見ている。 ヒュン!ビシィ! 何かを振るような音が聞こえ、それに続くように炸裂する音が辺りに響く。 「ぐうっ!」 ギーシュ(全裸)の苦痛の声。背中には太い蚯蚓腫れが出来ている。 ルイズが手に持っている鞭を振ったのが原因だ。 本来なら悶え苦しみながら床を転がるだろう、しかし、ギーシュ(全裸)が痛苦の表情を見せたのは一瞬。 直ぐにそれを上回る歓喜の表情を出して喘ぎ出す。 「まるでサカリのついた野良犬ね~」 そんなギーシュ(全裸)の顔を足で上に向けながら呆れたような声を出すルイズ。 その罵倒の言葉も快感なのかブルブルと震えながら更に恍惚とした表情となるギーシュ(全裸)。 そんなギーシュ(全裸)の恍惚の表情に微笑みを返すと、ルイズは手に持った鞭を振り被って躊躇無く振り下ろした。 「犬ッ!犬ッ!犬ッ!」 鞭でシバキまくるルイズ。目が何処かに逝っている。 「アアアゴッウゴゴゴゴッ! ガハアァゥッハアァァガガッ!もっとッ!もっとッ! もっとおおおおおおおおおおお! あああ! 叩いて!叩いてッ! もっとおおおああおおお 僕を叱ってえええええ!」 ルイズに負けず劣らず何処かに逝っちゃった目をしながら、叫びまくる(全裸) 数十分程続いた暴行は、始まりと同じ唐突さで終わりを迎えた。 「はぁはぁ」 額の汗を拭いながら息を荒げているルイズ。 鞭を持った手を股間に滑りこませ、艶かしい手付きでなぞっている、瞳は奇妙に潤み、頬は興奮で紅潮している。 扇情的な顔がやたらエロい、その筋の人からは絶賛されると思われる。 「・・・・・・・・・・うっ!」 体―――特に腰の部分を震わせている(全裸)・・・・・・何が起こったのかは考えない方が良いだろう。 まだ余韻が冷めきらないのか舌を出しながら喘ぐ(全裸)を見て何か思い付いたのか邪悪に微笑むルイズ。 (全裸)の髪を掴むと強引に上を向かせ―――何と自分の股間を押し付けた。 「そんなに喉が乾いてるならこれでも飲みなさい」 そう言ったルイズの下腹部からは生暖かい――――― ―――――ルケ 「キュルケ?」 「はっ!?」 思考が別世界に飛んだままだったキュルケはその言葉で現世に舞い戻った。 何事かと親友の顔を見ると、驚く事にやや焦っている(付き合いの長いキュルケ以外にはまず分からないが) 「ルイズが出て来る」 タバサのその言葉通り、出入り口に近付いてくる足音が聞こえて来た。 鉢合わせすると面倒な事になるだろうと判断し、その場から急いで退散する二人。 「涎」 その途中キュルケの顔を指差してくるタバサ。 顔を触ってみれば涎がダラダラと流れている。 どうやら、妄想で興奮して知らず知らずの内に垂れてしまったらしい。 赤面(褐色の肌なので良く見なければ分からないが)しながら涎を袖で拭うキュルケ 走りながらも、キュルケの頭には先程の妄想がリフレインし、ルイズへの復讐を思いついていた。 (うふふ、見てなさいよルイズ) そんな、にやけているキュルケを横目で見ながら。 (はぁ・・・・・・) 折角の休日を無駄な事に費やしたタバサは、キュルケに付き合った事を割と本気で後悔していた。
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破壊の杖を使用した後の惨状を、 ルイズはやや感心したというような表情で見つめていた。 実際、ルイズは感心していた。 破壊の杖……つまりは、『ろけっとらんちゃー』なる武器の凄まじい威力に。 ―――素晴らしい。 爆発が起こった後には、草木1本残っていない。 自分の爆発にも、ある程度の自信があっが、 これはその遥かに上をゆく。 ルイズは密かに、この破壊力を今後の目標に定めた。 改めて目の前の光景を見る。 何もかもが吹っ飛ばされ、 場を支配しているのは『死』や、『無』だ。 その有様は、何故かひどくしっくりと自分に馴染んだ。 やがてその場の空気に当てられ、虚無感がルイズの中でリズムを取り始める。 何だか懐かしいリズムだ。 神経が研ぎすまされ、辺りの雑音が耳に入らなくなる。 体の中で何かが荒々しく暴れ、それが回転していく感覚……。 ルイズは目をつむって、しばらくそのリズムに身を任せていたが…… やがてそれは嘘のように消えていってしまった。 途端にルイズは不快になった。 もっとさっきの感覚を味わいたかったのに。 自分にとって、もっとも大切な何かを掴み掛けていたのに、 お預けを食らってしまった感じだった。 興奮覚めやらぬルイズは、 『破壊の杖』を再び手に取った。 もう一回ぶっ放せば、 またあの感覚を味わえるのではないかと思ったからだ。 先ほど撃った場所とは少し離れた場所に照準を合わせ、 ルイズはトリガーを押した。 しかし、弾が発射されることはなかった。 "カキン!"という音がするだけで、 『破壊の杖』はうんともすんともいわない。 思わぬ出来事に、ルイズはイラつきながら、 トリガーを連打した。 "カキン!""カキン!""カキン!"…… しかし、やはり何の反応もない。 苛立ちが頂点に達し、ルイズは『破壊の杖』を地面に叩きつけた。 「何でよ……!!」 ルイズの中に、もうあの時のリズムは影も形も無かった。 やり場のない怒りにしばし身を震わせるルイズは、 やがて1つの手がかりに行き着いた。 DIOだ。 DIOは、この『破壊の杖』の使い方を知っていた。 あいつなら、もう一回この杖を使う方法を知っているに違いない。 しかし、その肝心のDIOは、今この場にはいない。 キュルケ達に対する煙幕代わりに、ルイズが派遣したのだった。 ……もう片づいた頃だろうか? いずれにせよ、今のルイズにとって、『破壊の杖』は最優先事項だった。 DIOを呼び戻すべく、ルイズは杖を取り出し、 意識を集中した。 自分の魔力が抜き取られ、DIOへと流れていく感覚がルイズを襲う。 そのうちに奴はここに戻ってくるだろう。 それにしても、と倦怠感に耐えながらルイズは思う。 近頃、こうやって無理やりDIOに命令を聞かせたことはあまりないが、 何だか今回は奪われていく魔力がやけに多い気がする。 DIOの力が増していっている証拠だ。 いつかDIOが己の制御から抜け出す日が来るのではないかという不安が再び鎌首をもたげるが、 ルイズは直ぐにそれを打ち払った。 自分だって、強くなった。 今回のフーケ戦で、ルイズは自らの飛躍的な成長を実感していた。 越えられなかった壁を1つ、打ち壊せた気がする。 まだまだ自分は成長する、いや、成長せねばならぬのだ。 成長して、勝利せねばならないのだ。 でも、一体何に勝つというのか……?と、 考えようとしたら、段々頭がぼーっとし始めた。 靄がかかったみたいに、さっきまでの思考があやふやになっていく。 ―――はて、私、何考えてたんだっけか? ルイズはうんうん唸って思いだそうとしたが……思い出せない。 いけない、まだ頭の怪我が治りきっていないようだ。 そう思い、ルイズは2、3度頭を振った。 まぁいいや。 とにかく、自分は邁進せねばならぬのだ。 勝利して、支配する。 そう頭の中で結論を下したのと時を同じくして、 突如背後から物音が聞こえ、ルイズはひとまず思考を中断した。 ルイズの後ろの木の陰から姿を現したのは、DIOだった。 その姿を確認するや否や、 ルイズは地面に転がる『破壊の杖』を拾い上げ、 DIOに突きつけた。 「遅いわよ、まったく!! それよりこれ、さっき使った後から壊れちゃったみたいなんだけど、 あんた、直せる? ていうか直しなさい、全速力で」 猛烈な勢いでググッと詰め寄るルイズだが、 それとは対照的に、DIOは冷たい視線を送った。 彼曰く、『良いところ』で邪魔をされ、些か不満だったのだ。 無理やり呼びつけられたDIOが発する不機嫌オーラは、それはそれは結構なものなのだが、 しかしルイズは全く意に介した様子はない。 『破壊の杖』の事で頭がいっぱいなようだ。 好奇心と期待に溢れ、目が爛々と輝いている。 よくも悪くも真っ直ぐなルイズの姿勢に毒気を抜かれたのか、 DIOはフッと緊張を解いた。 「あぁ……それは単発式なのだ。 もう弾がない以上、一回こっきりの使い捨てだ」 「ウソッ!? じゃあ、もう使えないの、これ?」 ルイズは捨てられた子犬のような顔をしたが、 DIOは首を横に振った。 「諦めるんだな。 これはもう、ただの鈍器としてしか使えまい。 さて、色々あったが、 フーケとやらは消せたようだな。 ……ようやく任務完了といったところか」 DIOは、目の前に広がる焼け野原に目をやりながら言った。 しかしルイズは、DIOの言葉にチッチッチッと指を振った。 「いいえ、それは違うわ。 残念ながら、『逃げられた』の。 ロングビル=フーケの奇襲に対して、トリステイン魔法学院の生徒達は勇敢に奮闘。 『破壊の杖』を奪還するに至るも、 フーケは卑劣極まる手段を用いて私達の一瞬の隙をつき、逃走。 以後、消息不明となるわ……永遠にね」 これにて任務完了よ、と締め括り、 ルイズはエッヘンと胸を張った。 DIOは取り敢えず、賛辞の拍手を送った。 "パチパチパチ……"と、しばらくの間、白々しい拍手が森に響く。 「喜びに水を差すようで気が引けるが……」 1人悦に浸っているルイズに、DIOが素朴な疑問を投げかけた。 「フーケがいなくなった今、一体誰が帰りの馬車の御者をするのかな?」 ルイズは、さも当然と言うような清々しい笑顔を向けた。 「もちろん、使い魔のあんたがやるに決まってるじゃない。 今から馬車に戻るから、ついてきなさい」 返事を聞くことなく破壊の杖をDIOに押し付けると、 ルイズは軽やかな足取りで、馬車が待機している場所へと向かい始めた。 「………………」 DIOは黙ってそれを見送り、ルイズの姿が見えなくなった後、 深いため息をついた。 しかし、直ぐに意識を切り替えると、 ルイズの後を追わず、ゆっくりと近くの茂みへと分けいっていった。 ガサガサと音を立てながら茂みの中を物色した後、 やがて茂みの中から1本の枯れ枝らしいものを拾い上げた。 軽く力を入れただけで、ポッキリと折れてしまいそうなほどカラカラに干からびている。 しかし、それは枯れ枝ではなかった。 枯れ枝かと思われたそれは、かつてフーケと呼ばれていた人物の右腕だった。 ルイズによって根こそぎ吸血された結果、 生気のかけらも感じられない。 DIOはフーケの腕を手に持って、 『破壊の杖』によって引き起こされた爆発の中心部へと歩を進めた。 そこは、土くれのフーケが行方不明になった場所。 おそらく、この一帯の地面には、粉々に砕けた骨やら何やらが散らばっていることだろう。 殆ど燃え尽きてしまっているかもしれないが。 DIOは、やおらその腕を中心部に置いた。 そして辺りを見回して、 ポツリと呟いた。 「こうまでバラバラでは、無理かもしれないが……物は試しだな。 やってみる価値はある」 ―――そう、かつてのタルカスや、黒騎士ブラフォードのように。 「あの土人形、なかなかの物だったぞ。 お前ほどのメイジを、死なせるのは惜しい」 DIOは躊躇うことなく、己の手首をスパッと切り裂いた。 一瞬の間をおいて、真っ赤な血が噴き出してくる。 絵に描いたように美しい赤色だが、 その中には、屍生人の元となるエキス(Extract)がたっぷり詰まっている。 出血が続く手首を、フーケの右腕の上にかざす。 ドクドクと、DIOの血液がフーケの右腕や、周りの土に注がれていく。 不思議なことに、フーケの右腕は、まるでスポンジが水を吸い込むようにDIOの血液を吸収し、 その量に比例して、若々しい女性のソレへと戻っていった。 「私の血で、生き返るが良い……『土くれ』のフーケよ」 そして、念入りな血液投下が終わった。 しばらくの沈黙の後、フーケの右腕がピクピクと動き始めた。 次第にその活動は活発になっていき、やがて、陸に打ち上げられた魚のように、 ビタンビタンと跳ね回り始めた。 それを確認すると、DIOはニヤリと笑った。 成功だ。 右腕がクネクネと動き始める様子を、DIOは面白そうに眺めていたが、 その時、遠くからルイズの急かす声が聞こえてきた。 「ちょっと! おいていくわよ!?」 フーケの再生を全て見届けようとも思ったが、 DIOは仕方なく諦めた。 そして、手首のキズをペロリとなめた。 すると、傷口がスゥッと塞がっていき、やがて完全に治ってしまった。 「今行く。 忘れ物を探していたんだ。 もう見つかったよ」 去り際にフーケの右腕に視線を投げかけつつ、DIOはそう答えた。 フーケ戦、終了!! 獲得賞品一覧 『微熱』のキュルケ……名誉。 『雪風』のタバサ……名誉。 『ゼロ』のルイズ……名誉+多額の財宝。 DIO……無し。強いて言えば、手駒。 to be continued…… 48へ
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そこは薄汚い店だった。 壁や棚の至る所に武具が乱雑に並べられていて埃臭い。 ドアの音に気付いたのか、店の奥から出てきた主人は胡散臭げにルイズとギーシュとペットショップを見つめる。 何も言わずにパイプをプカプカと吸っていたオヤジだが。 ルイズとギーシュの紐タイに描かれた貴族の印に気づくと、途端に笑顔になった 「これはこれは、貴族の旦那様方がこんな所まで一体何の御用で?」 「ナイフを買いに来たんだけど」 顔を見ずに告げるルイズに少しムッとする親父。 だがすぐに気を取り直すと、営業用スマイルを浮かべながら店の奥に引っ込む。 何で貴族が武器なんて買いに来るんだ?誰が使うんだ?と言う疑問は親父の頭には無い 今、考えている事はどうやって金貨一枚でも多く分捕ってやるか。それだけである。商売人の鏡だ。 (絶~っ対にボッタくってやんぜ~!) と、親父が意気込んで数十秒が経った後、立派なナイフを店の奥から持ってきた。 柄や鞘には眩い宝石がちりばめられ、刀身の艶やかさ、柄拵えの流麗さは、芸術的な作品と呼べるだろう。 それはそれは見事なナイフであったそうな。 「店一番の業「これで良いわ」 喜色満面で口上を述べようとしている親父を手で制し、ルイズがその手に持ってきたのは店の棚にダース単位で置いてある二束三文の安物ナイフであった。 親父は焦った。何処にでもある大量生産品のナイフでは、幾ら世間知らずの貴族が相手だと言えども値段を誤魔化す事ができない。 しかし、折角の上客を逃すわけにはいかない、長年の商売で鍛えた舌を全力で回しながら口上を述べる。 「貴族の旦那様!これは、かの高名なゲルマニアの錬金魔術師ナンチャラカンチャラ卿の「おいくら?」 親父の言葉を半分も聞いていないルイズが途中で遮る。 だが、親父は諦めない。少しでも可能性がある限り、男は度胸!何でも試してみるものさであった。 「魔法がかかってるから鉄だって一刀「おいくら?」 取り付く島も無いルイズ。 半分諦めながらも微かな希望に掛けて親父は喋り続ける。 「今なら大特価!エキュー金貨で千七「おいくら?」 親父は机の上に沈んだ。完全な敗北である。 それに関わらず、ルイズは手元のナイフを弄繰り回していた。 夢で出て来た男が投げたナイフに最も近い形であり、持ってるだけで夢の中の男を思い出してルイズは何故か安心した。 味も確かめようとして、レロレロと舐めてみている。 「プッ・・・・ハハハハ!ザマーねーな親父ィ!」 突然、男のダミ声が店内に響き渡った。 少し驚いた二人と一羽が声の元を見てみるが、乱雑に剣が積み上げられているだけだ。 「うるせーぞデル公!」 半ギレした親父の負けず劣らずなダミ声がそれに応える。 親父の視線の先を見てみると、そこには一本の剣があった。錆びだらけでやたらとボロイ。 「世間知らずの貴族に売り込めないようじゃ守銭奴の名が泣くぜ!ガハハハハハ!」 どういうメルヘンやファンタジーなのだろうか、剣が喋っている。 「インテリジェンスソード?」 呆れたようなルイズの声に気付いたのか、剣がこっちを向く前に――――――親父の目がキュピーンと光った。 「そうですとも!貴族のお嬢様! こいつは確かに意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ! 所々に錆びが浮いてますが、切れ味はそんじょそこらの安物には負けませんぜ! 声が煩いなら、そこの鞘に突っ込んどけば静かにさせられます! 今なら特別価格!新金貨百枚程でこのデルフリンガーをお譲りいたしますぜ」 厄介払いも兼ねる事ができるので割と必死であった、が。 それにしても、この親父ノリノリである。 「哀れな平民を助けると思って、デル公を買ってやってくれませんでしょうか!」 しかし、くだんのルイズは既に興味を無くしておりナイフの清算をすませると出入り口に向かおうとしている。 ルイズに縋り付こうとする親父、かなり喜劇である。 そんなルイズと親父が笑えない漫才をかましている一方で。 「こいつはオ・デレータ!まさか、『使い手』がこんな鳥公だとは!」 ペットショップを見たデルフリンガーが驚きの声をあげた。 剣はペットショップの左翼に刻まれたルーンを注視している。 「君の知り合い?」 ペットショップに乗っかられているギーシュが疑問の声を挙げるが。 話題の鳥公はガン無視!ルイズの動向を覗っているだけだ。 そんなペットショップを見ながら、云々と唸っているデルフリンガーだが。 「よっしゃ!このデルフリンガー様をいますぐ買え鳥公!損はさせねーぜッ!」 何やら一人(一本?)で自己完結した。 しかし、どう見たとしてもペットショップが金を持っているようには見えない。 瞬時の判断で、ペットショップの主人であるルイズに矛先を代えると、俺を買え!オーラを出しながら自分の売り込みを始める 「貴族のネーチャンよ~!俺を買ってくれねーか!?」 買え!買え!と猛攻を続ける親父とデルフリンガーに負けたのか。 やれやれ、と溜息を突いて財布を取り出すルイズ。 その姿に喜ぶ親父。だが、彼の災難はこれからが始まりだった。 「十枚」 ルイズの冷淡な声。その手には金貨が十枚乗っている。 「へ?冗談がキツ「十枚」 「・・・・・・分かりましたあっしも勉強させてもらいまして九十「十枚」 「そ、それじゃ。デル公の厄介払い込みで八十「十枚」 「七十・・・それ以上は負ける事が出ゲッッ!? ガツン! 珍妙な声を出しながら、頭を机にぶつける親父。 何時の間にか近寄っていたルイズが親父の頭を掴んで机に叩きつけたのが原因だ。 フガフガ言いながらも、親父は何とかルイズの手を振り払おうとしたが。 ドン! 「ヒィ!」 顔の直ぐ脇にナイフを突き立てられて強引に活動を停止させられた 「金貨十枚で売るか売らないか・・・・・・私が聞いてるのはそれだけなんだけど?」 豚を見る目付きで哀れな親父を見つめるルイズ。 「ルイズ様。僕が用立てておきましょうか?」 我関せずな態度だったギーシュが状況にそぐわぬニコヤカな声をかける。 が、 「あんたは黙ってなさい!さあ!売るの売らないの!?どっち!?」 ギーシュを見もせずに脅迫を続けるルイズ 駄目押しとばかりに親父の鼻先で杖を揺らしている。殆ど強盗である。 「わ、わ、わかりやした!金貨10枚でお譲りいたします!!!!」 貴族が杖を掲げた。その事実に親父は戦慄し、恐喝に屈した。 机に置かれた金貨十枚を半泣きで集める。 ルイズはナイフと財布を懐にしまうと、鞘に収めたデルフリンガーをギーシュに放り投げて渡し店を出る。 2人と1羽が店を出た後、親父は唾を吐き捨てて忌々しげに叫んだ。 「今日は厄日だクソ!」
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「おや、『風』の呪文だね……うぷ…」 シエスタによる公開屠殺を強制的に見せられて、今にもゲロを吐きそうな顔をしていたワルドが、 青い顔をしたまま呟いた。 未だに鉄錆にも似た異臭が漂う死地に、ばっさばっさと翼を羽ばたかせる音が響く。 どこかで聞いたことのある羽音だった。 「シルフィード……だったかしら」 名前はともかく、確かにそれはタバサの使い魔の風竜であった。 重なりかけた月を背景に、悠然と空に浮かぶ幻獣。 そのシルフィードが、何故この場にいるというのか。 ルイズの疑問に応えるように、風竜はゆっくりと地面に舞い降りた。 場に満ちる死臭が、人間の何倍もの嗅覚を誇る風竜の鼻を襲い、 シルフィードは実に嫌そうな顔できゅいきゅい鳴いた。 その風竜の背には、主人であるタバサの姿。 パジャマ姿のまま、本を読んでいる。 さっきシエスタを吹き飛ばしたのは、タバサの『風』魔法だったのだ。 (お姉さま、ここクサい! シルフィお鼻が曲がっちゃうのね! クサい! クサい! ク~サ~い!) (……我慢する) そのタバサの後ろから、炎のように真っ赤な髪の女性が機敏な動作で飛び降りて、髪をかき上げる。 キュルケであった。 憎きツェルプストー。 ルイズの生涯のライバルであった。 「いくら礼節を弁えない者相手とはいえ、やり過ぎでなくて、ヴァリエール?」 後ろでヨロヨロと立ち上がり、頭を振っているシエスタを横目で見ながら、ルイズは肩をすくめた。 「あんたの夜の情事よりは幾分穏やかだわ。 ……で、どうしてここにいるわけ?」 「ッッ! …………朝方、窓からあんたたちが馬に乗って出かけようとしてるもんだから、気になって後をつけたのよ」 柳眉を逆立てて、キュルケは言い放った。 本当は助けに来たつもりだったのだが、ルイズの嫌味に対する反発心から、 つい無難な理由を述べたのだった。 しかし、良い所を邪魔をされたとあって、ルイズの嫌味は歯止めがきかない。 ウンザリした顔で、シッシッと追い払う仕草をする。 「おととい来て下さらないかしら、マダム? 大事な大事な男娼達が、首を長くして待ってるわよ? あら失礼、長くしているのは首じゃなかったわね……オホホホホ」 ほくそ笑むルイズ。 仮にも十八の乙女に対してマダム呼ばわりである。 これには流石のキュルケも腹に据えかねたらしい。目つきが据わってきた。 「言ってくれるじゃない、『ゼロ』のクセに……」 「…………何ですって?」 「何よ!」 バチバチと火花を散らしながら睨み合う二人。 やがて、いつものように壮絶な罵りあいが始まるのであった。 売女! ナイムネ! 脂肪細胞の無駄遣い! 言ったわね!? 野蛮人! おチビ! 色狂い! 独り身! ツラに一発ぶち込むわよ!? ケツに一発食らわすわよ!? ………………………………… …………………………………。 あらかた罵倒のネタが出尽くしたところで、タバサが止めに入った。 彼女がその身長よりも大きな杖を振ると、二人の体が宙に浮かぶ。 "レビテーション"の魔法を使ったのだ。 「非常時」 ポツリと呟くタバサの言葉で冷静になったのか、二人は渋々矛を収めることにしたようだった。 大人しくなった二人を、タバサはゆっくりと地面に下ろす。 「……改めて聞くけど、どうしてあなたがここにいるの、ツェルプストー? 私たち、お忍びの仕事の最中なの」 「ふん、勘違いしないで。貴方を助けに来た訳じゃないの。 ……ねぇ?」 ルイズに対する渋い顔を一転、キュルケはしなをつくってワルドににじり寄った。 「おひげが素敵な紳士様。身を焦がすような情熱に興味はおあり?」 じりじりと近づいてくるキュルケを、しかし、ワルドは青い顔で押しやった。 「あら、どうして?」 「婚約者が勘違いしては困る。 それに……こんな場所で、そんな気にはとてもじゃないが……なれないな」 確かに、とキュルケは納得して頷いた。 辺り一面には、依然として濃厚な血の匂いが漂っている。 直ぐに危険な野獣が集まってくるだろう。 既に上空では、匂いに誘われてカラスやハゲタカが群を為し始めていた。 彼らは、地上にある今晩の食事をご所望であったが、シルフィードがいるために手が出せずにいた。 ギャアギャアという、彼等の愚痴にも似た叫び声が響くこの場所では、 とてもじゃあないがロマンチックな気分にはなれない。 ワルドの言うことは至極もっともであった。 そして、それにもましての驚愕の事実が、キュルケの興味を強く刺激していたのであった。 「なあに? ルイズ、あなた婚約者がいたの? よりにもよってあんたに?」 「いちゃ悪いの? それに、まだ私は結婚するって決めた訳じゃないわ」 驚天動地といった顔をするキュルケだが、以外や以外、ルイズはあんまり気にしていないようだった。 もっと顔を赤らめるなりして照れるかと思ったのにつまんない、とキュルケは思った。 最近のルイズは、やけに冷静……というより、冷徹なのだ。 さらには、以前はまだまだ希薄であったはずのルイズから感じられるオーラのようなものが、 洗練され、さらなる深みを見せているようにも思われた。 何というか、カリスマ? とでも言うのだろうか。キュルケはルイズから発せられるそれをうまく説明することが出来なかった。 ただ一つ明らかなのは、ルイズが本格的に変わり始めた原因はDIOにあるということであった。 今でこそ、短絡的な感情表現をしてくれることもあるが、それもいつまで続くのか分からない。 ルイズの行く末を案じるキュルケであったが、そんな彼女をよそに、 ルイズは運良く生き残った一人に尋問を開始することにした。 地面に情けなく横たわって気絶している男にルイズはドカドカと近寄り、容赦なく鳩尾を踏んづけた。 激しく咳き込みながら、男は意識を取り戻した。 ゆっくりと目を開いた男は、自分を見下ろしているルイズの姿を確認すると、 途端に取り乱した。 「た、助けて!! 許して! 俺はただ、雇われてただけなんだよぉ……!! 」 「ほらほら、五月蝿いわね……静かにしなさいよ、大人げない」 しかし、男は喚くのを止めない。それどころか、脇に立つシエスタの姿を目にするや、その叫び声を益々大きくしてゆくのであった。 ルイズは痛む頭に手をやり、ゆっくりと杖を取り出して男に突きつけた。 「黙れ」 首を吹っ飛ばされた仲間達の姿が、男の脳裏にフラッシュバックする。 男はピタッと静かになった。 「では、聞くわ。 あんたたち誰に雇われたの?」 「は、はい、ラ・ロシェールの酒場でメイジに雇われました……女です」 早くもアルビオンの貴族に気付かれたかと、ルイズは焦った。 しかし、思った通りこいつは唯の三下だ。 根掘り葉掘り聞いた所で、実りのある情報が得られる確率は絶望的といえた。 それでも、ルイズに対する恐怖からか、男の返事が素直そのものであったのが、唯一の救いだった。 余計な手間がかからずに済んだと思いつつ、ルイズは先ほどの戦闘で感じた疑問を男にぶつけた。 「じゃ次。 さっきの戦いで、どうして私だけ襲ったの?」 「雇い主にち、注文されたんでさぁ、へへ……。 緑色の髪をした、美人のメイジに言われたんです……。 桃色の髪をしたチビだけは絶対にこ、殺せって……。 胸がペッタンコだから、すぐ分かるって……。ヒヒヒ、本当にすぐ分かりましたよ」 「緑色? どっかで見たことあるような……。 それとあんた、一言多いわ。 こんど余計なこと言ったら、せっかく拾った命を無駄にすることになるわよ」 調子に乗りかけてニヤついていた男の顔が、再び凍り付いた。 ルイズはいったん振り返ってキュルケ達をチラリと見た後、男に向き直った。 「もう聞くことはないわ。あんたは用無し。 殺してやるつもりだったけど……フン、せいぜいキュルケに感謝しなさい」 どうやら、命だけは助けてやると言っているらしい。それを聞いた男の顔が少しだけ和らいだ。 希望に包まれ始めた男の顔は、ルイズにとって非常に神経に障るものであったが、この際我慢することにした。 何だかんだで自分はキュルケに弱い……この瞬間、ルイズはそのことを強く自覚した。 いずれは克服せねばならない課題だった。 そのためには理由を知る必要があったが、ルイズには何となくそれがわかっていた。 キュルケはルイズの姉に似ているのだ。 優しいカトレアに。厳しいエレオノールに。 そう考えてルイズは、ハッとなる。 基本的に姉には頭の上がらないルイズにとって、これはゆゆしき事態であった。 『ルイズは姉に頭が上がらない→キュルケは姉に似ている→ルイズはキュルケにも頭が上がらない』 こういうカラクリだから、キュルケはこれからのルイズにとって乗り越えねばならぬ障害足り得たということか。 ならば、ルイズの為すべきことは一つである。 キュルケを乗り越えるためには、まず二人の姉を…………。 自分は二人の姉を……どうするというのか。 そう考えるとモヤモヤしてくる自分の胸の内を誤魔化すように、ルイズは男を追い払った。 男は振り向くことなく駆け、やがてラ・ロシェールの夕闇に包まれていった。 「てっきり殺すと思ったが……慈悲深いじゃないか。 あのキュルケとやらに負い目を感じているのか?」 いちいち痛いところを突く使い魔だと、ルイズは思った。 人の心を纏う鎧の、ほんの僅かな隙間を縫って、中心に針を突き立ててくる。 ふてくされた顔で、ルイズは馬上のDIOを見上げた。 「……何なら、消してやろうか? 可愛い御主人様の為なら、はてさて……どうってことはない。遠慮するな」 DIOの悪魔の囁きである。 ここでYESと答えれば楽なのだろうが、ルイズは首を横に振った。 「いいえ、嬉しい申し出だけれど断るわ。 これは私とキュルケの……いえ、私だけの問題よ」 「そうか」 拍子抜けするほどあっさりした返事を残して、DIOはさっさとラ・ロシェールの街へと移動し始めた。 その後に、デルフリンガーを回収したシエスタがしずしずと付き従う。 だが、ルイズは遠ざかっていくDIOの馬を追いかけ、ひらりとその背に跨った。 突如として自分の後ろに飛び乗ってきたルイズに、DIOは振り向いた。 「私の馬、さっきの戦いで死んじゃったの。 だから、ラ・ロシェールまで乗せなさい」 そっぽを向いて一息に言い切ったルイズにDIOはニヤリと笑い、直ぐに前に向き直った。 DIOがルイズに見せた笑みは一瞬であったが、しかし、ルイズは見た。 DIOの目。 何もかもお見通しと言わんばかりのDIOの目は、確かにこう言っていた。 『キュルケを乗り越えるために、まず姉を殺せ』 殺す? 私が? エレオノール姉様と、カトレア姉様を? ………………………………。 ルイズは自分の杖をぎゅっと握り締めた。 両脇を峡谷に挟まれた、ラ・ロシェールの街の灯りが、怪しく一行を迎えていた。 ―――ルイズ一行、無事にラ・ロシェールへ。 to be continued……
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左はトリステイン魔法学院へ、右は城下町へと通ずる分かれ道。 手綱を預かるジェシカは迷わず右の道へと馬車を進め、そっとモンモランシーを覗き見る。 「ん?なに」 「い、いえ!何でもないです!」 「そう」 馬車に乗り込んでからずっと、モンモランシーは眉間に皺を寄せてブツブツと何かを呟いていた。 ジェシカはそれが気になって仕方が無いのだが、あからさまに不機嫌なモンモランシーに 声を掛けて良いものかと思案する。 「あなた歳は幾つ?」 「え?あっあたし、えとえと、じゅ、16です!」 突然話しかけられて言葉を詰まらせながらも、何とかジェシカは答える。 「そう、私と同い年ね。…おかしいわ、絶対」 モンモランシーはポツリと呟き、眉根を寄せて目を瞑る。 「あはは…はは…は…」 ジェシカはその態度に何かマズイ事でもしたのかと、ここまでの道のりを思い返す。 背中合わせに縛った男達とカエルを馬車の屋根に乗せる。 馬車を走らせながら、改めて感謝を述べる。彼女が笑ってそれを返す。 暫く無言。その後、彼女が呟き始める。 これと言った失敗はしていない。強いて言うなら何も喋らなかったのが気に障ったのだろうか? ジェシカは場を和まそうと、得意の『夜空の妖精』を歌おうと口を開きかけたその時、 前方に月明かりに照らされる街道警備隊の詰め所が見えた。 ほんの一日足らずの出来事ではあったが、詰め所の窓から漏れる暖かなランプの明かりに ジェシカは長い旅から帰ってきた様な感慨を覚え、自然と流れ出す涙を抑えながら馬車を走らせた モンモランシーは自分とロビンの視覚を同調させ、男達がまだ気絶しているのを確認すると 屋根の上からジェシカを見下ろす。 ジェシカは馬車の振動で胸をプルンプルンと揺らしながら涙を堪えている。 モンモランシーは視覚を戻して手綱を握るジェシカを見詰める。 「もうすぐ…家に帰れます…」 「そうね」 涙ぐみながらジェシカは馬車を走らせる。やっぱり胸がプルンプルンと揺れている。 モンモランシーはジェシカの胸を見た時、自分の目の錯覚だと思った。 学院随一の超人胸度94を誇るキュルケと互角のおっぱいを平民が持っている。 オマケにその持ち主が自分と同い年などと信じられる筈が無い。 しかし、現実に目の前でおっぱいがプルンプルンと揺れている。 これは『本物』なのか『贋物』なのか?その答えは決まっている。 間違いなく『贋物』だ!これが『本物』の訳が無い! 仮に『本物』だとしても!その存在を認める訳にはいかないッ!! 確認してやるッ!今ッ!ここでッ!!その正体を見極めてやるッ!!! 「モンモランシーさん…きゃうっ!」 モンモランシーはおもむろにジェシカの胸を鷲掴みにし、その豊かな胸を揉みしだく。 「……あれ?」 「ななな、なにをっ!?はぅん!」 モンモランシーはジェシカの抗議を無視して、押す、引く、握る、摘むなどの考えられる ありとあらゆる方法でジェシカの胸を確認するが、幻覚でも詰め物をしている訳でもない 『本物』だけが持つ『凄み』が手から伝わり、モンモランシーは狼狽して頭が真っ白になる。 「嘘だ!!」 「何が!ひゃぁ…あふぅぅぅん…あぁ」 このおっぱいは『本物』。その事実に心が崩壊しそうになるモンモランシーは自分を守る為に 尚も激しくジェシカの胸を揉みしだく! そして、モンモランシーの心にある変化が訪れた。 心の奥底から沸き起こる感情、それは『恐怖』! おっぱいの圧倒的な存在感に心が埋め尽くされ、畏怖の対象であったおっぱいの感触が 次第に『快感』に変わっていく。 おっぱいを揉む動きを止めようとしても止まらない。心と身体が拒否しているのだ! 『あ~お嬢さん?そろそろ止めた方が良いと思うんだが』 頭に響くロビンの声に漸くモンモランシーは我に返ると、押し倒されて身体をグッタリと横たえ 荒い息を吐くジェシカの姿があった。 (あ…ありのまま今起こった事を話すわ! 『私はジェシカの胸を本物か確かめていたらいつの間にか止まらなくなっていた』 な…何を言ってるのか理解できないと思うけど私も何をしたのか判らなかった… 頭がどうにかなりそうだった…レベル5だとかおっぱい祭りだとかそんなチャチなもんじゃあ 断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ…) 『まあ…私は楽しめたから良いんだが。ちゃんと理由を言わないと変態扱いされるぞ』 顔を紅潮させて潤んだ瞳で自分を見るジェシカに謝り、モンモランシーが理由を説明すると 胸元を直しながらジェシカが腹を抱えて笑い出した。 「なによ、笑わなくても良いじゃない」 「だってー、いきなり胸を揉んでくるからソッチの趣味の人かと思ってさ」 『間違ってはいないな』 屋根に乗ったロビンを掴み上げて道に放り投げると、モンモランシーは憮然とした表情を浮かべ、 大笑いするジェシカから顔を背ける。 その仕草にクスクスと笑いながら、ジェシカは詰め所の前に馬車を止めた。 まだ笑っているジェシカに馬車から少女達を外に出すように頼んで、モンモランシーは こじんまりとした造りの詰め所の扉を叩く。 「誰かいないのー!」 呼べど叩けど一向に返事は返ってこないのに苛立ち、モンモランシーは扉を開けようとするが 扉には鍵が掛かっていて中に入る事は出来ない。 アンロックで鍵を開けようかと思ったが、魔法の使いすぎで精神力は残り少ない。 ラインが一回、ドットなら二回唱えられるだけの僅かな精神力しか残っていなかった。 モンモランシーは中に入ることを諦め、裏手にある厩舎へと足を伸ばす。 「馬はちゃんといるわね」 3頭の馬が繋がれて厩舎が全て塞がっているのを見て、中に警備兵がいる事を確信する。 暇なので眠りこけているのだろう。 扉を開けて叩き起こしてやろうと思い、踵を返し扉に向かう途中に奇妙なものを発見した。 草の生えた地面の一箇所だけ地肌が剥き出しになり、そこには赤い筋の幾つも入った歪な木の根が 天を掴むように逆さまに生えていた。 詰め所の陰に隠れて正面からは見えなかったのだ。 それを不審に思ったモンモランシーは、良く見ようと近づいてその場で凍りついた。 それは木の根などでは無い。 地面から生えているのは、殺され埋められた人間の手だった。 「むね~につけ~てるマークはようせ~い」 父や酒場の仲間の下へと帰れる喜びからか、ジェシカは歌を歌いながら馬車の扉に手を掛ける。 「みんなもう大丈夫よ!」 「何が大丈夫なんだぁ~?」 突然の声にジェシカは思わず振り向くと、下卑た笑いを浮かべた男に突き飛ばされて倒れ込む。 ジェシカは立ち上がろうとするが、脇腹が熱くて身体に力が入らない。 脇腹を触ってみると赤い液体がベットリと手に付いた。 「惜しかったな~もうちょっとだったのによぉ~」 「くぁ…」 血に塗れたナイフを向けながら、男はジェシカの髪を掴んで身体を持ち上げる。 「静かにしろよ~苦しみたくねぇ~だろぉ~が」 ジェシカは残された力を振り絞り、男を突き飛ばすと覚束ない足取りで厩舎へと向かう。 男は立ち上がってジェシカを追わずに、馬車の中の少女達を脅すと屋根に向かって声を掛ける。 「アニキ~オットーのアニキ~」 「良くやったぞハンザ」 弟分のハンザを労い、オットーが屋根から飛び降りて姿を現す。 「アニキ、言いつけ通りしやしたぜ」 「うむ」 オットーはハンザを労い、これから行う制裁を思い浮かべて顔を笑みで歪ませながら 静かに厩舎へと歩み寄って行った。
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シルフィードが300メイルから急降下する。 地表すれすれ2メイルで引き起こす。 そのまま超低空円周横転に移行。 次は地表すれすれから羽ばたかずに垂直に上昇。 やっぱりシルフィードはきれいだ、とわたし(ミドラー)は見惚れていた。 この夕食後のシルフィードの飛行訓練が始まってしばらくになる。 タバサが指導している。 この子には色々なことを教わっている。 色々な使い魔の名前、魔法の種類、使い魔契約の内容。 言葉が通じるのは契約時の効果らしい。気がつかなかった。 気になっていた食堂の奇妙な少年についても説明を受けた。 はるか東方から呼び出された使い魔で、サイトというらしい。 ギーシュに決闘で勝ったというのは正直驚いた。あのぼんやりした雰囲気は擬態なのか。 粗末な食事とずば抜けた剣術、彼はサムライなのだろうか? なんとなくアヌビスを思い出す。 あまり関わらないほうがよさそうだ。毛皮もウロコもないし。 そのサイトは今、簀巻きにされて吊るされている。 ルイズとキュルケというメイジに二股がばれて処刑されるらしい。 キュルケというのは顔なじみだ。確かあのサラマンダーとかいうトカゲの主人だ。 顔を赤らめて、トカゲの首筋はあまり撫でないでほしいと云ってきたので覚えている。 しかし使い魔がメイジに二股を掛ける、というのは何かすごい。ギーシュに勝つだけのことはあるのか。 体術で着地できるからなのか余裕に見える。 「…次、16分割垂直緩横転」 タバサが新しいメニューを追加する声に、何やら地鳴りが重なった。 地震かと振り返った先に 10階建てのビルほどの大きな土人形が生えつつあった。 様々なことが同時に起きた。 キュルケが火の玉でサイトを吊るすロープを焼き払い、落下するサイトをシルフィードが超低空で咥えて離脱、ルイズとタバサとわたしは校舎から全力で離れた。 離れた場所から土人形(タバサ曰く、ゴーレムと云うらしい)を観察する。 さっきからハイプリーステスのパワーショベルアームで足を狙って削っているが、相手が大きすぎる。 その上削る片端から再生する。やっかいな敵だ。 タバサやルイズ、キュルケが魔法を飛ばしているがやっぱり有効打にならない。 ゴーレムが四つんばいになる。 頭の部分に、黒光りするツノのような物が見えた。 ぐっと、スモウのような格好をしたかと思うと―――そのまま校舎に頭突きをした。 衝撃で校舎の窓ガラスが全て砕け散る。 壁に頭をめり込ませた状態で2~3分動きが止まっていたゴーレムが、立ち上がる。 ぞっとした。 全高30メイルからあれだけの質量の土の塊が降ってくれば、どんな防御も意味をなさない。 これはまずい。 とりあえずシルフィードで皆と一緒に避難、と思って振り向いた先に、シルフィードが白目を剥いて痙攣していた。 「ちょっと!?どうしたのよ!」 キュルケが叫ぶ。タバサも顔面蒼白だ。 シルフィードの口の端から人の足首が見える…足首? さっき助けたサイトだ! 急降下でスピードがつきすぎて、咥えるつもりが飲み込みかけてしまったのか。 慌てて皆でシルフィードを助ける。 サイトはぐったりしている。命には別状なさそうだ。 一連のドタバタの最中、大きなゴーレムはこちらを無視して歩き始めていた。 逃げるつもりのようだ。 タバサがシルフィードに追跡させている。 ゴーレム出現から逃亡まで僅か数分。 泥棒として見事な手口だ。 あと、ルイズは主なんだから竜の涎なんか気にせずに縄を切ってやるべきじゃないかと思った。 一時間もしないうちに、学院の非常職員会議が開かれた。 目撃者としてタバサたちと一緒に呼ばれる。 できれば来たくなかった。 本当に来たくなかった。 (ギーシュは来ない。モンモランシーの私室にいて目撃していないのだ。 最近ちょっと夜遊びが過ぎると思う) 扉を開ける前から、地獄のような雰囲気が漏れ出ている。 タバサ、ルイズ、キュルケに目配せして誰が開けるか相談する。 何となく視線がこっちに集まる。 そりゃあこの中では一番年上だけれど…正直部外者なんだけどなぁ… ぐずぐずしてたらサイトが先頭に立って扉を開けてくれた。 なんていい奴だろう、と感謝し、 『しッつれーしまーすッ!』(馬鹿明るく大きな声) 即座に撤回した。 宝物庫の中で集まっていた教師達は、皆オスマン師に土下座していた。 ミス・シュヴルーズは土下座したまま気絶している。頭に花瓶の破片が刺さっていて血塗れ水浸しだ。 そこに場違いな明るい声が響き、生徒たちが入ってきたのだ。 気まずいのとオスマン師の意識が逸れたのを感じて、土下座している教師は微妙な表情になる。 そこに響く声 「なあ、あの凄い雰囲気の爺さん誰?」 「オスマン先生っつってこの学校で一番えらい人。だからちょっと静かにしてろよデルフ」 ((お前も永久に黙ってろッ!!)) 教師陣全員の無言の絶叫がミドラーには聞こえた。 そしてほぼ同時にルイズがサイトの隣に立ち、抜いた手が見えないほどの速さで掌底を放ち使い魔を昏倒させた。 「私の至らぬ使い魔が失礼しました」 ルイズが頭を下げる。心中ではサイトに対する罵詈雑言が渦巻いている。 考えてみればサイトは前回覚醒したオスマン師を一度も見ていない。 ギーシュとの決闘の後は昏倒していたし、ミドラーの決闘のときもルイズに殴られて気絶していた。 しかし、見ていないとはいえこの状態のオスマン師にあんな気安い口を聞くとは… (馬鹿だとは思っていたが、これほどまでとは思わなかったッ) ギーシュが使い魔に影響されてだんだん緩くなっているのを目の当たりにしていたルイズは慄然とする。 買い与えたインテリジェンスソードもちっとも知性の足しになってない。 (冗談じゃないわ!こんな奴に引きずられて馬鹿になるのは真っ平よ!)